Proof of Concept(PoC)によるプロセス科学の学理を異分野や異業種に活かす

-退任のご挨拶に代えて-

栗本英和

 2022年3月末をもって名実ともに名古屋大学を「卒業」できました。1981年3月に工学研究科化学工学専攻前期課程を修了後、同年4月に工学部、1993年10月から教養部を改組した情報文化学部、2017年4月からは拡充改組された情報学部に、大学院は工学研究科(化学工学専攻)から人間情報学研究科(社会情報学専攻)、情報科学研究科(現在、情報学研究科数理情報学専攻)、環境学研究科(都市環境学専攻)にて教育研究に携わりました。とくに、2004年5月から教養教育院統括部、10月からは高等教育研究センターを兼務すると同時に、国立大学の法人化後に設置された本部の評価企画室(副室長)、総合企画室、そして教養教育推進室を通して、経営企画に資する法人評価や認証評価に従事した後、教養教育院副院長(全学教育の質保証担当)をもって退職いたしました。

 

 大学入学からの47年間に計3つの学部、4つの研究科、3つの室、院、センターの部局や部署に籍をおき実務を熟す、学者らしくない路を歩みました。健友会では財政逼迫の折に幹事を拝命し、上田会長、架谷・小林両副会長と共に新たな財源を確保すべく、卒業生を介した社会連携として交流会事業の企画立案と実施運営を担い、これを持続可能な形にすることで財務の健全化を図るプロジェクト事業を担ったことが今でも印象深い想い出です。

 

 振り返れば、プロセスシステム工学の見方や考え方を学んだ化学工学科第8講座は松原正一教授に始まり、守末利彌教授、小野木克明教授、そして川尻喜章教授へと脈々と受け継がれているからこそ、学内に居ながら化学工学の域を越えた異分野や異部局、さらには業種業態を超えて共通する「ありたい姿を描き、これを信じ、そのための目標を掲げて達成するプロセスを、質(Quality)の創造・確保の観点から洞察する」方針に副って、プロセス科学の探究と想像に挑むことができました。そして、知識創造の場を化学反応の場とみなし、知識創造プロセスをモデリングすることで、下記に示す機能発現モデルと知識創造プロセスモデルを提案でき、名古屋大学での教育研究活動に幕を下ろすこともできました。

 

 化学工学の礎であるプロセス科学の学理を異分野でPoCすることができたのは、化学工学や健友会の関係各位及び諸先輩からの叱咤激励の賜であり、萬謝とお礼を申し上げます。

原子・分子・分子集合体・物質の構造に擬えたData-Information-Knowledge-Wisdom Model※1

※1:暗黙知の協創プロセス、ナレッジ・マネジメント研究、第20号、pp.1-14(2022)

 

SECIモデルを拡充した知と概念のフラクタクル型SECIモデル※2と知識創造プロセス※1

※2:ネクサス・コモンズ、白揚社(2019)