研究成果の社会実装をめざして  後藤元信

 令和4年3月末をもって名古屋大学を退職いたしました。昭和50年に名大に入学し、博士前期、博士後期課程を修了後、助手を経て、昭和63年に熊本大学に赴任し25年余りの熊本での暮らしの後に平成24年に名大に異動し、定年退職を迎えました。教員生活の最初と最後を反応工学と拡散分離工学の分野で名大で過ごさせて頂きました。名大での学生時代は第4講座で「反応工学」を学び、反応工学と拡散分離工学の分野で研究活動をしてきましたので、名大に平成24年に戻った時は「拡散プロセス工学」の研究室でした。その後の改組により、マテリアル工学科の「移動現象制御工学」の研究室で退職しました。名大から熊大に異動してすぐにカリフォルニア大学デービス校で研究員として1年間ほど渡米し、初めて超臨界流体の研究に関って以来、熊大と名大で一貫して超臨界流体の研究を退職まで続けることができました。さらに、熊大の21世紀COEとして電気系の先生と始めた高圧力下でのプラズマによる反応や材料調製の研究にも関りました。名大と熊大では多くの先生方に助けて頂き、優秀な学生たちにも恵まれ、それなりの研究ができたと自負しています。

 

 熊本に赴任した頃は大学に化学工学関連の雑誌もほとんどなくインターネットも普及していないころでしたので当初は研究の仕方に戸惑いましたが、熊本は日本の西の端ですが、アジアの中心に位置していると考えて、アジア各国との共同研究や交流を積極的に進めました。今では多くの卒業生がそれぞれの母国で教員をしています。さらに、欧米も含めた交流も活発に行い、京都と名古屋で開催した国際会議のオーガナイザーをはじめ多くの国内外での国際会議の委員を務めてきました。欧州に本部のある超臨界の分野を取りまとめている国際組織ISASFのアジアからの初めての副会長や超臨界の国際誌Journal of Supercritical FluidsのAssociate Editorを務めるなど、国際社会における日本人のプレゼンスを高めてこれたと思います。

 

 化学工学会の仕事も九州支部と東海支部のお手伝いをしてきたほかに、化学工学会の副会長など本部の理事の仕事にも関わらせて頂きました。

 産業界で超臨界流体技術に尽力されてきた人と親しくなり、一緒に2005年から日本での超臨界流体の普及のためのワークショップなどの活動を行ってきました。2013年には桑名市に超臨界技術センター株式会社を創設でき、後に名古屋大学発ベンチャーとして認証して頂きました。この会社では超臨界流体に関する受託試験や受託生産などを請け負っていますが、コーヒー豆の脱カフェインについては社内で試験を重ね、スケールアップして生産設備を建設し、2020年から日本で初めての超臨界流体によるデカフェコーヒー豆の生産を始めました。定年退職後は、大学での研究を社会に還元するために、超臨界技術センターでの仕事をはじめ、国内外において超臨界流体の技術のさらなる社会実装のお手伝いをしていきたいと思っています。

 

 最後に、これまでお世話になりました教室の皆様、健友会の皆様に心より御礼申し上げます。