『省エネルギー二酸化炭素分離回収技術に関して』  町田 洋

 地球温暖化への対策が求められる中、産業競争力を維持、強化するために、低コストのCO2削減技術が産業界から期待されています。発電所などの排ガスより温室効果ガスCO2を分離回収し、地中などに隔離する技術、二酸化炭素回収貯留(CO2 Capture and Storage:CCS)は有効な手段として考えられていますが、その際にかかるコストやエネルギーは依然高く、低コスト化、省エネルギー化は技術の社会実装への鍵となります。また近年CCSを超え、回収したCO2を資源化し循環利用する二酸化炭素回収利用(CO2 Capture and Utilization:CCU)への挑戦が進められています。しかしその際もCO2を分離回収するエネルギーの削減が求められています。

 

 私たちのグループでは材料開発とプロセス開発両面を改良することにより、省エネルギーでCO2を分離回収する技術の提案、検証を進めています。本プロジェクトは2015年度よりJST-ALCA(科学技術振興機構-先端的低炭素化技術開発)の支援をいただいています。CO2分離回収技術は従来3-4 GJ/ton- CO2程度必要とされており、火力発電所の発電効率低下や、発電コスト増加につながります。私たちの技術は再生塔の温度の低減がポイントとなっており、液開発においてはCO2吸収前後で2液相に分離する相分離型CO2吸収剤を開発し、再生塔温度の低温化が可能となりました。さらにプロセスとして、CCUを想定した際の統合プロセスH2ガスストリッピングプロセスを提案しました。背景として回収したCO2と再エネ由来のH2より燃料や化成品を合成し、炭素循環させる枠組みが注目されていることにあります。本プロセスでは吸収塔と再生塔の温度差を従来の1/8の10 ℃程度(従来80 ℃)に低減可能です。

 

 プロセス開発には物性の整備が不可欠となります。新規吸収剤のプロセス設計においては、CO2溶解度、密度、粘度、熱伝導度、界面張力などの物性値が必要となります。JST-ALCAのプロジェクトでは輸送物性を専門としている山口毅先生に開始当初より参画いただき、物性の整備のみならず、プロセス全体のエクセルギー解析など多くの場面でサポートいただきました。また、本プロジェクトではラボスケールのプラント運転実証が計画されており、ラボプラント運転の立ち上げから吸収塔設計に必要なモデル作成までを小林敬幸先生の研究室で博士を取得した江崎丈裕先生(現福岡大学)に担当いただきました。納品段階の装置は不具合が多く、改良を重ねることになりましたが、小林研究室で装置設計など鍛え上げられた江崎先生は3か月ほどで安定した運転ができる状態に持っていき、計画通り、初年度で吸収塔の運転データ取得に至りました。さらに次年度に向け再生塔の速度データ取得を検討していた際にH2ガスストリッピングのきっかけとなるデータを得ました。

 

 ALCAプロジェクトは途中審査を経て、実用化に向け予算枠を増やしていただく機会を得ました。反応熱などの物性測定に関してはチャン・クウィン先生(香田研究室卒)、溶液構造解析に関しては柳瀬慶一先生(信州大学)に新たに着任いただきました。さらに高圧物性測定、量子化学計算による分子構造最適化、熱回収プロセスに関し、産業技術総合研究所、東京工業大学、福岡大学との連携し進めています。プロジェクトは最長で2021年度までとなっており、それまでにプロセス概念の設計、長期試験などを終え、次の実用化への準備を進める必要があります。

 

 私自身は大学時代CO2の液相溶解度など基礎物性の測定・モデル化などを専門としておりましたが、名古屋大学着任後、堀添浩俊教授より企業でのご経験に基づく実用的なプロセス計算の手法などを学び、その後則永行庸教授にはCO2利用まで含めた資源循環を学び、社会実装に必要な俯瞰的にプロセスを見る経験を積む機会をいただけたと思います。まだ至らない点多くありますが、真に社会に役立つ技術の開発に向け努力を続けていきたいと思います。

相分離するCO2吸収剤(左)、H2ガスストリッピングプロセス(右)

INCHEM TOKYO2019で出展、講演を行いました(筆者は右端)