退任教員挨拶  田邊靖博

 平成18年4月から14年もの長きにわたりお世話になり、令和元年度一杯で早期退職いたしました。思い返せば、至らなかったことだらけですが、教員生活の3分の1以上を名古屋大学で過ごすことができましたのも、偏に暖かく寛容な諸先生方、諸先輩方・健友会殿の御支援あってのことと感謝申し上げます。出身学科と関連の深い専攻[他大学です]が化学工学の一分野から独立して誕生していたにも関わらず、名古屋大学分子化学工学分野に着任した当時は化学工学の重要性を理解していませんでした。コース・分野の先生方、卒業生・修了生と接する中で、化学工学が工学・工業の基本中の基本概念を包埋していることに気づきました。さらに、系統的に化学工学を学ぶことができる分子化学工学コース・分野の教育カリキュラムの中に、“体系化の必要性”と“歴史の重要性”を感じていました。教育におけるこれらの存在は、決して過去形にしてはいけないと思っています。化学工学的発想と知見は大きな武器になります。材料出身者には、“物質”と“材料”とを峻別して考えることの必要性を認識する契機となりました。御存知の様に、分子化学工学コースは材料コースと合体して、マテリアル工学科が誕生しました。新学科もすでに4年目を迎え、来る3月には第一期生が卒業します。とかく、目新しさに遷ろいがちな昨今ですが、“体系化の重要性”と“歴史の重み”は、潰えることはありません。マテリアル工学科(関連大学院3専攻を含む)を卒業(修了)する学生さんは、化学工学を基礎から体系的に学び、さらに固体科学[分子化学工学コース・分野では教えきれなかった]の素養を身に付けています。ミクロからマクロに至る概念を熟知し、プロセス全体を一気通貫でき(物質・エネルギーの輪廻転生を思い描け)る人財であると確信しています。

 

 新型コロナの影響で、工学部・工学研究科の春学期(前期)講義はオンライン(リモート)主体となり、対面が必須である実験系・演習系は秋学期(後期)に延期になった科目があると伺いました。秋学期は春学期からの繰越し科目を含めて対面での講義が再開されたと伺っています。新型コロナが講義あるいは研究室の研究活動のあり方を再考する好機になっていることは確かだと思いますが、待ったなしの解決策とその実施を求められている先生方の肉体的・精神的な御心労は如何ばかりかとお察しいたします。健友会会員皆様方におかれましても、状況は同様と拝察いたします。残念ですが、終息までには長丁場を覚悟する必要がありそうです。呉々も御自愛下さい。

 

 私事を書かせて頂くのが習わしかと思いますので、少し。名古屋に住んでいた割には、愛知県の観光地をあまり訪ねていませんでした。時間を作って、愛知県内のみならず三重・滋賀・奈良などの近隣県の観光地にも足を運びたいと思っていましたので、退職直後の4~5月は旅行三昧の予定を立てていました。しかし、生憎の新型コロナ禍で実施できませんでした。今は、老化防止のために年に一つずつと始めた資格の勉強(?)に精を出しています。義務教育で学んだことすら先生にお返ししていることに気づかされる毎日です。退職された先生方から、退職して3ヶ月もすると時間を持て余す様になるので、方策を講じておいた方が良いとアドバイスを頂いておりましたが、旅行を含めて実施できていない計画が数多く残っており、しばらくは時間を持て余すことはなさそうです。

 

 最後になりましたが、健友会会員皆様方の益々の御発展と御健康を、さらに、化学工学が新時代の潮流を巻き起こし第二次産業復興[社会の牽引を期待されている第四次・第五次産業は、第二次産業の絶対的基盤の上にのみ開花すると信じて疑っていないので]の旗印となることを祈念して、退職の御挨拶に代えさせて頂きます。

長い間、本当にありがとうございました。これからも、どうぞよろしくお願い申し上げます。